1 今回のテーマ
前回は,不動産を念頭に,共有の基本的性質及び共有者の一人が共有物を単独で占有している場合の法的関係について見て参りました。
単独占有者に従前の経緯等から占有権原が認められる場合,他の共有者は明渡しを請求できないだけでなく,不当利得返還請求や損害賠償請求を行うこともできないということになります。このような場合,他の共有者は指をくわえて見ているしかないのでしょうか。
今回は,共有関係の解消についてみていきたいと思います。
2 共有関係の解消
⑴ 持分権の譲渡
前述のような場合に他の共有者が採り得る手段の一つとして,持分権の譲渡があります。前回検討しましたとおり,共有物自体の処分(変更)を行うためには,共有者全員の同意が必要となりますが,自分の持分権の処分は各共有者が単独で自由に行えます。
しかしながら,設例のケースでは,第三者が持分権を取得したとしても,当該不動産を使用収益できる見込みがないことから,買手が見つからないか,例え買手が現れても代金額が低廉なものになる可能性が高く,現実的ではなさそうです。
⑵ 協議による分割
そこで,次に,自分の持分権を他の共有者(特に単独占有者)に買い取ってもらうことを検討することになります。民法は「各共有者は,いつでも共有物の分割を請求することができる。」と規定しており(同法256条1項本文),他の共有者全員に対して分割すべき旨の意思表示を行い,分割方法の協議の中で,代償金の金額等を決めていくことが考えられます。なお,一部の共有者間だけで持分権の譲渡を行う場合には,共有物分割協議とはいえませんので,先ほどの第三者への持分権の譲渡と同じく,法的には売買契約と解釈することになりそうです。
共有物分割協議がまとまらなかった場合,後述の共有物分割訴訟によって強制的に共有関係が解消されることになりますので,同訴訟に要する時間や費用を考えると,話し合いによって解決するのが合理的といえますが,相続争いが背景にある場合等には,感情のもつれ等から合理的な話し合いができないことも少なくありません。
⑶ 共有物分割請求
ア 共有物分割訴訟
民法は,共有物分割協議がまとまらなかった場合には,裁判所による分割を求める訴訟を提起できるとしています(民法258条1項)。なお,同訴訟は必ず共有者全員を当事者にする必要があるため(これを固有必要的共同訴訟といいます。),分割を求める共有者は,他の共有者全員を被告として訴訟提起することになります。
イ 分割の方法
民法上は,現物分割(共有物を物理的に分割すること)を原則とし,現物分割できない場合又は現物分割によってはその価値を著しく減少させるおそれがあるときは競売による代金分割(競落代金を持分に応じて案分すること)ができると規定していることから(民法258条2項),以前は,共有物全部を共有者の1人の単独所有とし,他の共有者に対してその持分に応じた金銭を交付する方法による分割(価格賠償による分割)はできないものと解されていました。
しかしながら,広大な農地等であれば現物分割は容易といえますが,僅少な住宅地等の場合,現物分割してしまうと,どちらも住宅を建てることのできない使い途のない土地となってしまいますし,建物の場合は,そもそも現物分割が事実上不可能です。そのような場合,民法の規定どおりですと競売を行うことになりますが,競落価格は市場価格を大きく下回ってしまうことが多く(60%~70%程度と言われています。),共有物分割が事実上困難となる場合がありました。
そのような中,最高裁は従前の判例を変更し,共有物の現物分割の一態様として,持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせて過不足の調整を行うという部分的価格賠償の方法による分割を認めました(最大判昭62.4.22民集41巻3号408頁)。その後,更に,共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし,これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させるという全面的価格賠償の方法による分割を許容するに至り(最一小判平8.10.31民集50巻9号2563頁),共有物分割訴訟においても,当該共有物を必要としている共有者一人の単独所有とすることが可能となりました。
ウ 全面的価格賠償
前述のとおり,全面的価格賠償の方法による分割が認められるとしても,法律上の原則は,現物分割又は競売による代金分割であることに変わりはなく,上記最高裁判決(最一小判平8.10.31民集50巻9号2563頁)は,全面的価格賠償の方法による分割を認める要件として,①当該共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められること,及び②その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価恪を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められること,を必要としています。
判示上は「特段の事情」とされていますが,前述のとおり,現物分割又は競売による代金分割が適さない事案が存在することは否定できず,単独占有者が持分の大部分を有しており,共有物である自宅の土地建物の単独所有を希望しているような場合には,実務上比較的緩やかに全面的価格賠償が認められているように思われます。
なお,賠償価格の算定にあたっては,当該共有物全体の時価額を評価したうえで,取得されることになる持分の割合を乗じることになりますが,同算定においても前回述べました占有権原が影響してくる場合があることに注意が必要です。
例えば,母親Aと息子Bが共有している土地上にAが単独所有する建物が存在し,Aが居住しているような場合,Aの当該土地の占有権原が,借地借家法上の借地権(賃借権又は地上権)となれば,Bの持分には借地権の負担が付いていることになりますので,更地としての評価額より借地権割合(都市部では70%~80%になることもあります。)に応じた価格が控除されることになりますし,同占有権原が借地借家法上の借地権とはいえない場合(使用借権や建物所有目的でない賃借権)であったとしても,更地価格から一定の割合が減価されているようです。
3 最後に
2回にわたって,不動産を念頭に,身近に起こり得る共有の法的関係について見て参りましたが,様々な考慮すべき事項が存在することがお分かりいただけたと思います。また,判断についても,具体的な事実の総合衡量となるものも多く,個別具体的な事案を離れて結論を出すことは困難といえますので,不動産の共有についてお悩みの方は,一度当事務所までご相談いただければ幸いです。
(久加和孝)