コラム・法律情報

久加和孝弁護士が執筆したコラム「不動産の共有について(1)」を掲載しました。

1 今回のテーマ

財産は長男が相続するものという風潮が薄れるとともに,世の中の権利意識の高まりを受け,相続財産を巡るご相談が多くなってきたように感じます。相続の結果,争いの残る相続人間で不動産が共有の状態となってしまうことも珍しくありません。

今回は,不動産を念頭に,身近に起こり得る共有の法的関係について考えたいと思います。

 

2 共有の基本的性質

⑴ 使用収益

各共有者は,共有物の全部について,持分に応じた使用をすることができます(民法249条)。その使用の方法(共同で使用するか,それぞれの持分に応じた面積で分けて使用するか,それとも時期や季節を分けて使用するか等)については,後述の共有物の管理として協議により決定することになります。

⑵ 保存行為

共有物の保存行為は,各共有者が単独で行うことができます(民法252条但書)。例えば,共有建物の雨漏りを修繕したり,不法占有者に対して明渡しを求めたりするような場合がこれにあたります。

⑶ 管理行為

一方,共有物の管理に関する事項は,各共有者の持分(の価格)の過半数で決定することになります(民法252条本文)。共有物の管理とは,共有物の変更を伴わない利用・改良のことをいい,前述の利用方法についての話し合いのほか,共有物の第三者への賃貸等がこれに当たるとされます。

⑷ 変更行為

そして,共有物の変更については,共有者全員の同意が必要となります(民法251条)。ですので,共有建物を増改築したり,共有地である田畑地を宅地に変えたりするためには,他の共有者の同意を得る必要があります。

⑸ 費用負担

共有物の管理費用や公租公課等の負担は,持分に応じて各共有者が負担しなければなりません(民法253条1項)。同条項により,本来,固定資産税等は,持分に応じて各共有者が支払うことになりますが,後述の明示又は黙示の契約により,当該不動産を使用している共有者が負担することもあります。

 

3 共有者の一人が共有不動産を単独で占有している場合

⑴ 明渡請求の可否

では,共有者の一人が共有不動産を単独で占有している場合,他の共有者は,単独占有者に対して,同不動産の明渡しを求めることができるでしょうか。

この点,最高裁(最一小判昭41.5.19民集20巻5号947頁)は,共同相続に基づく共有者の一人であって,その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない少数持分権者は,他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものでないことを認めながらも,少数持分権者は自己の持分によって,共有物を使用収益する権限を有し,これに基づいて共有物を占有するものと認められることを理由に,共有物の持分の過半を有する者であっても,当然にはその明渡しを請求できるものではないとしています。

⑵ 不当利得返還請求又は損害賠償請求の可否

このように,単独占有者に対して明渡しを請求できないとすると,他の共有者は,自身の持分権(使用収益権)を妨げられたまま,どうすることもできないのでしょうか。

この点,最高裁(最二小判平12.4.7判時1713号50頁)は,共有物である土地の一部を単独で占有することができる権原につき特段の主張,立証のない場合,共有者は,上記占有により共有者の持分に応じた使用が妨げられているとして,単独占有者に対して,持分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することができるものと解すべきであるとしています。

⑶ 占有権原

同判例に従いますと,共有物を他の共有者に単独占有されてしまっている共有者は,単独占有者に対して,不当利得返還請求又は損害賠償請求を行うことができそうです。しかしながら,「共有物である土地の一部を単独で占有することができる権原につき特段の主張,立証のない場合」という限定が付されていることに注意が必要です。

相続によって不動産が共有状態となった場合,そこに至るまでには様々な経緯が存在すると考えられます。親族間においては契約書等が交わされないことも多いですが,それまでの歴史的経緯を捉えて,黙示的な使用貸借契約等の成立が認定されることがあり,その場合,単独占有者は占有の権原を有することになりますので,他の共有者は,明渡しを求めることができないだけでなく,不当利得返還請求又は損害賠償請求を行うこともできなくなります。

どのような場合がこれに当たるかですが,内縁の夫婦が建物を持分1/2ずつで共有し,同建物に居住して事業を営んでいたところ,夫が死亡し,その息子が妻に対して不当利得返還請求を行った事案において,最高裁(最一小判平10.2.26民集52巻1号255頁)は,同夫婦の関係及び共有不動産の使用状況からすると,一方が死亡した場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的,態様の不動産の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するとして,妻が同建物を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認しています。また,共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきた事案(最三小判平8.12.17民集50巻10号2778頁)において,建物が同相続人の居住の場であり,同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると,遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが,被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるとして,同被相続人が死亡した場合は,少なくとも遺産分割終了までの間は,被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり,同居の相続人を借主とする建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである,としていることが参考になります。

 

4 まとめ

以上みて参りましたとおり,共有者の一人が共有不動産を単独で占有している場合であっても,同人も,共有物の全部について持分に応じた使用をすることができる以上,他の共有者が明渡しを請求することは困難です。そして,単独占有者に対して不当利得返還請求や損害賠償請求を行うことができるか否かは,当該共有物の従前の使用状況や共有状態に至った経緯次第ということになります。その判断は微妙な法的評価となりますので,弁護士にご相談いただければと存じます。

話しが長くなりましたので今回はここまでとし,次回は,不当利得返還請求や損害賠償請求を行うこともできないときに,他の共有者が採り得る手段,共有関係の解消について検討したいと思います。

 

(久加和孝)

2017.07.04