コラム・法律情報

渡邊奈美弁護士が執筆したコラム「近隣トラブル(ベランダ喫煙について)」を掲載しました。

1 たばこをめぐる情勢
最近,マンションでのベランダ喫煙を問題視する声をよく耳にします。その内容としては,たばこの煙や臭いが嫌,洗濯物に臭いがつく,受動喫煙の影響が心配といったものです。
JTによる2015年「全国たばこ喫煙者率調査」では,喫煙者率は男女計で19.9%と年々減少傾向にあります。喫煙者の減少の原因としては,高齢化の進展,喫煙と健康に関する意識の高まり,喫煙をめぐる規制の強化や,増税・定価改定等さまざまな要因があると分析されていますが,喫煙者に対する視線は今後ますます厳しいものになっていくと予想されます。
このような時勢を受けてか,今や規約において,ベランダなど共用部分での喫煙を禁止するマンションが増加しています。

2 ベランダでの喫煙
通常,分譲マンションは,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)により,各部屋の「専有部分」と,エントランス・共用廊下・屋上などの「共用部分」に分かれ,マンションを購入した人は,「専有部分」として自分の部屋について区分所有権を有することになります。そして,区分所有権を有する人は,居住する部屋を,原則自由に使用することができます。
では,ベランダは「専有部分」と「共用部分」どちらに含まれるでしょうか。
「部屋の居住者しか使えないから専有部分?」と考えがちですが,意外なことに,ベランダは,一般に避難通路の役割をしているものが多いことから「共用部分」とされます。もっとも,ベランダは,通常,規約において,特定の居住者が専用に使う権利を認められており,「専用使用部分」という位置付けになります。
賃貸マンションのように,1人の所有者(オーナー)が建物全体を所有している場合は,区分所有法の適用はありませんが,通常,規約等により,ベランダは,「共用部分」とされて専用使用が認められている点は同様です。なお,賃貸マンションであっても,オーナー以外の人が所有する住戸が1戸でもあれば,区分所有法の適用がありますので,分譲マンションの場合と同様に考えられます。

「ベランダが専用使用部分にあたるなら,自由に使える!たばこを吸ってもいいはずだ!」と考える方もいるでしょう。しかし,前述のように,規約でベランダでの喫煙が禁止されている場合は,たとえ専用使用部分であっても喫煙することができません。
では,規約にベランダ喫煙の禁止が定められていない場合はどうでしょう。マンションの規約には定められていないから,自由にたばこが吸えるのでしょうか。

3 名古屋地裁平成24年12月13日判決
この問いに関連して,自室のベランダで喫煙を継続する行為が,上の階の住人に対する不法行為にあたるとして,喫煙者に損害賠償を認める判決が出ています(名古屋地裁平成23年(ワ)第7078号 平成24年12月13日判決)。

判決によりますと,原告は5階,被告はすぐ下の4階に居住しており,家族がいるときは外でたばこを吸っていました。原告にはぜんそくの持病があり,階下から流れてくるたばこの煙をストレスに感じ,被告に対し,手紙や電話で喫煙をやめるよう求めましたが,被告はそれに応じず,喫煙を約1年半継続しました。そのため,原告は,被告の喫煙の際に出た煙により帯状疱疹を発症し,体調が悪化したとして名古屋地裁に訴えを提起し,被告に対して150万円の賠償を求めました。一方,被告は,原告の体調悪化と煙の因果関係は認められないこと,マンションの規約でベランダでの喫煙は禁じられていないこと等を挙げ,ベランダ喫煙に違法性はないと反論しました。
これに対し,裁判所は,マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても,マンションの他の居住者に与える不利益の程度によっては,制限すべき場合があり得るのであって,他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら,喫煙を継続し,何らこれを防止する措置をとらない場合には,喫煙が不法行為を構成することがあり得るとして,ベランダ喫煙が不法行為になりうると判断しました。そして,このことは,当該マンションの使用規則がベランダでの喫煙を禁じていない場合であっても同様であるとして,裁判所は,原告の精神的損害を認め,被告に5万円の支払いを命じました。

上記判決からすると,マンションの規約に定められていないからといって,ベランダで自由にたばこを吸っていいわけではなく,他の住人にたばこの煙が届かないように配慮し,苦情・注意等を受けた場合には喫煙を中止する必要があるということになります。
また,上記判例は分譲マンションにおける事例についての判断でしたが,判例の趣旨からすると分譲マンションと賃貸マンションで異なるところはなく,賃貸マンションにおいてもベランダでの喫煙が一定限度制限されるといえるでしょう。

4 おわりに
以上ではベランダ喫煙に限ってお話をしてきましたが,マンションにおける共同生活では,騒音,ペット,駐輪駐車問題など,まだまだたくさんのトラブルが起こり得ます。これらどの問題も共通して,他人に配慮し,お互いの生活を尊重し合うことのできる姿勢が求められていると感じます。

(渡邊奈美)

2016.05.21